望郷(湊かなえ)
湊かなえさんの短編集。
読後、まず抱いた感想は・・・
「ミステリーなのに、ミステリーらしくない。」
でした。
物語の舞台となっている白綱島は、湊さんの故郷因島であることはすぐに想像がつきました。白綱島を舞台に、「本土」と島をつなぐ「白い橋」ができたことで、複雑な想いを抱く登場人物たちが描かれます。
過去のトラウマを持つ登場人物たちが、成人して(または親になって)からの視点で、過去を語り、今を生きます。
普通に読み進めていくと、故郷を懐古する小説のようにもみえますが・・・
「みかんの花」
島を出て行った姉に隠された秘密。
ラストは、背筋が凍るこわさがありました。
「海の星」
僕=浜崎洋平と「おっさん」の娘=真野美咲が出会う因果の恐ろしさ。
「おっさん」が僕の家にボランティアに来ていた理由に驚愕しました。
「夢の国」
東京ドリームランドに憧れていた田山夢都子。
厳しい祖母の存在により、子どものころ行くことは叶いませんでした。
親になり、憧れ続けたドリームランドへ行きますが、そこで夢都子は自分が憧れていたものは何であったのかに気づかされます。自分を縛っていたものは・・・
「雲の糸」
母親が父親を殺したことで、犯罪者の息子として不遇の少年時代を過ごした宏高は、歌手として成功。同級生・的場の策略により、的場鉄工所の五十周年記念のイベントで歌を歌うことに。屈辱に耐えかねて投身するも、目が覚めたベットの上で、母親が父親を殺した理由を知り・・・
「石の十字架」
台風で家が浸水し救助を待ちながら、わたしは石鹸に十字架を彫り、学校に行けなくなった娘・志穂に子どものころの話をします。面と向かって言えないことを、親友めぐみとのエピソードに重ねて訴えるように・・・
「言葉は知らないうちにナイフになる、ってことはわかっているのに、どの言葉がナイフになって、どの言葉がならないか、区別することはできなかったから。これは大人になった今でもできない」(230ページ)と、わたしは娘に伝えます。
わたしはめぐみに放った言葉を十字架として背負いながらも、娘に当時の話を伝えていると窓の外からライトの光が・・・
「光の航路」
小学校教師の大崎は、女子のいじめ問題に悩まされていました。大崎の家が放火され、入院していたところに、同じく教師であった父親に中学時代助けられたという畑野忠彦がやってきます。そこで聞いた父の言葉は、ある一筋の光をもたらし・・・
全編を通して、「学校」や「教師」が出てくるのも特徴であると感じます。
湊さんが実際に家庭科の講師をされていたからでしょうか。
「海の星」では、おっさんの娘は小学校の教師という設定ですし、「夢の国」では、夢都子と夫の平川は高校の教育実習で出会っています。「光の航路」でも、大崎航もその父も小学校の教師です。
だれもが通過する「学校」を物語に絡ませることは、島に住んだことのない読者にも島の生活をよりリアルに伝えることに成功しているようにも思います。
表面的に登場人物がそれぞれの話がつながっているわけではありませんが、物語の奥底のテーマでは深くつながっているように感じました。それは、白綱島を舞台にして描かれた作品であると同時に、登場人物が心のどこかで島という狭い世界の閉鎖性に悩んでいたことに起因するのかもしれません。
様々な伏線が散りばめられているのでしょうが、その場面にきって「はっ!」となることも多数。読後に、もう一度読んでたしかめたくなる、そんな作品です。
はる