読書の旅

私にとって「読書」とは何かを考えます。

湊かなえさん講演会

 東京国際ブックフェアに足を運んだ理由の一つに好きな作家さんの講演会の開催がありました。

 

人気ミステリー作家の湊かなえさん。

【大ベストセラー『告白』はこうして生まれた!】

登壇者:湊かなえ氏、双葉社の営業局長・川庄篤史氏、同文芸出版部副編集長・平野優佳氏。

 

 当ブログでも、湊かなえさんの「望郷」について書いた記事のアクセスが一番多く、湊かなえさん人気の高さを感じます。先日「望郷」が、テレビ東京でドラマ化されたことも大きいようですね。検索ワードの多くは「白綱島どこ?」など、白綱島の場所を検索したワードがが多くを占めます。

 

講演会で湊さんが語った思いと現実のギャップが面白い。

皮肉なことに、湊さんが告白を書いたきっかけは、絶対に「映像化」しない作品を作りたかったから。←バッチリ映画化済。

そして、小説を書くにあたり、物語の中に自分を置いていただきたいから地域は限定しない。・・・ん?この前提でいくと、白綱島を直接ご自身の故郷とせず、あえて架空の島にしたのもこのような意図があってのことだと感じました。

 

 さて、ここからは講演会の内容を記述しますが、メモを元に再構成しますので、ご了承の上、お読みください。湊さんはユーモアがあって、天然?とっても面白い方でした。本がどのようにして生まれ、私たちの手元に届くのかといったこともよくわかる講演でした。印象に残った『告白』誕生の秘話を3つのトピックスでお伝えします。

 

1.映像化できない作品を作りたい

 湊さんが『告白』を作り始めたきっかけは、30歳を過ぎて何か始めたい!と思ったこと。パソコンを持っていたから、シナリオを書こうとした。しかし、東京のテレビ局のシナリオを書くということは、淡路島在住という地方在住にはハンデがあることを感じる。地方に住みながらできるのものは何か。・・・そこで思いついたのが小説を書くことであった。シナリオの勉強をしていたときにセリフは三行以内という知識があったため、映像化できない作品を作ろうと決心。短編一本分しゃべってやる!ということで、『告白』の「聖職者」が誕生。小説推理新人賞に応募した。

 

編集担当になった平野氏のコメント。

「一行目でこれやりたい!」すごい人がいる、やっと会えたね!と思えたそう。なんと送られてきた原稿は最後まで句読点がない。平野氏は、湊さんが素人だからなのか、自覚があってこうしたのか分からなかった。

 

湊さんはこれに対し。

「聖職者」は、原稿用紙100枚分あったが、応募規定は80枚であった。そこで、要らない文を削る→改行をなくすといった方法で80枚まで減らすも、自分のパソコンでは80枚だけど、パソコンによって違って規定をはみ出したらどうしようと心配になり、句読点を消去して78枚にした。そのような訳で、句読点のない文章が完成したとのこと。

 

 

2.幻の3章

 「聖職者」が本になることになり、留守電に「編集担当になりました平野です」とのメッセージが入っていた。そのとき、編集って何?というくらい本作りのことは分からなかった湊さん。ゲラが送られてきて、赤鉛筆で「トル」など朱を入れる作業も直接ゲラに書き込んでいいのに、恐れ多くて、すべて付箋に書いて貼ったらしい。授賞式で初めて編集者の平野氏と出会い、「あの続きはどうなったの?」ときかれ、帰りの新幹線(東京→新神戸)3時間で2章が完成した。

 受賞作「聖職者」が世に出た後、ネットでエゴサーチしてみると、「人格ひどい」などと否定されていたり、自分の周囲の人も見ることを考え、人の目を意識してしまった。そこで、続く3章は加害者と主人公が和解する話。「先生は僕のことを見てくれているんだ」的な結末を書く。すると、担当の平野氏から「こういう作品はほかの人が書けばいいんです!」とお叱りの電話。3日間で、3章を全て書き直し、最初に書かれた3章はお蔵入りすることになったのであった。

 

 

3.湊かなえプロジェクト

 平野氏の熱さに圧倒され、営業の川庄氏は湊かなえという新人作家を世に売り出すために湊かなえプロジェクトを始動。年間7万6000冊、月にして6300冊、日に250~300冊もの本が世に出るなかで、埋もれてしまう危機感。とにかく本を売るには、初動が大事!書店も売れる本を置く。そこで、川庄氏は、ゲラを信頼関係のある東京と大阪の書店員さんにわたし、感想を言い合う場を設ける。タイトル、想定、帯、店頭ディスプレイ・・・。装丁も時間をかけて話し合った。机の向きをどうするかで一時間話し合ったとのこと。発売前、書店では出だし16行を書いたチラシをまるっと一棚使って置いてくれる。初版は異例の1.6万部!!!(通常は4000~5000。)その後、王様のブランチでの紹介、文春のミステリーで1位獲得、本屋大賞も受賞し、映画化決定など、うなぎのぼりで販売部数も伸びていく。文庫化も通常は3年たってからが多いが、映画化が決定したので、スピード文庫化。映画公開前に100万売る目標を立て、初版26万部。80万分の宣伝費をかけ、映画公開時には270万部売る。

 

「映像化できない作品」を目指して書いた『告白』の映像化について湊さんは、「巻き込まれたらそのまま巻き込まれてしまえ!」ということで、脚本に口出しもせず、大好きな中島監督にすべてを託す。初めて映画を見た時には号泣したそう。

 

※ちなみに湊さんは、家に本が届くまで装丁を知らなかった!←

本のタイトルは、平野氏から「私が装丁家さんの家に着くまでの20~30分の間に3つ候補を出して!」の無茶ぶりのなかで、考えたらしい。

 

 

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 湊さんはこの講演会に一人ではなく、編集者さんと営業担当さんと出たのは、『告白』の話がどうできたのかということばかり聞かれるが、自分ひとりで生まれたのではないというメッセージを読者に伝えたかったからのようです。最後に、こんなこともおっしゃていました。昔、理科の先生が言った「炭素を磨けばダイヤモンドになる」を信じていたそうで、その話にかけて、私の原稿は炭ですが、読者という摩擦で化学変化が起きてダイヤモンドになる。また、担当編集者さん、営業さんなど、「いかにいい人と知り合えるか」とも仰っていました。

 

湊かなえさん、来年でデビュー10周年ということで、感謝の意を込めて、47都道府県でサイン会を開くことを発表され、閉会。

 

 私が『告白』を手に取ったのは、読書好きの友人に本屋大賞をとった面白い本があるよ、と勧められたからでした。初めて出会った湊作品の秘話をこうして聞くことができ、大変楽しいあっという間の一時間でした。これからも湊作品を読んでいきたいと思います。

 

はる