読書の旅

私にとって「読書」とは何かを考えます。

こうばしい日々(江國香織)

大人になってから出会ったけど、中学生の時に出会ってみたかった本。

 

舞台はアメリカ。江國さんご自身のアメリカ留学の経験が活かされているのかなあと感じた。アメリカのスクールドラマで見るようなの学園ライフのリアルな空気が作中に漂う。

 

アメリカ育ちのダイ、ガールフレンドのジル。姉、ウィル、島田さん・・・いろいろな魅力的な人物が登場するけれど、私が一番好きな登場人物は、パーネルさんだ。

 

ダイのパーネルさん像はこうだ。「ミネストローネのとき、パーネルさんは玉ねぎだけよけてよそってくれる。ほかの人だったら、好き嫌いはだめよ、とかなんとか言うんだろうけど、パーネルさんはそんなこと言わない。」(19ページ)

 

食堂でお世話になっているパーネルさんとダイが図書館での出会う場面が素敵。

僕は本を二冊抱えていたけれど、パーネルさんは小さなハンドバック一つだった。(47ページ)

ダイ「図書館に行っても本は借りないの?」

パーネルさん「ええ。図書館にすわっているのが好きなの。本の息づかいをきいているだけでいいのよ。わたしの趣味なの」

本好きなパーネルさんが好きなのかも(笑)

 

パーネルさんのおうちでチョコレートブラウニーを食べたダイ。

「チョコレートブラウニーは、ほんとうに特別においしかった。熱々で、甘ったるくなく、香ばしい。」(64ページ)

 

「こうばしい」というと、食べ物の焼けるいい香りを想像する。作中にカリカリに焼いたベーコンやトースト、紅茶にラスク、オムレツ、コーヒー・・・なども登場するけれど、一番はきっとこのチョコレートブラウニー。

 

タイトルをあえてひらがなの「こうばしい」にしたのは、香り+「心ひかれる」日々という意味も盛り込んだからかな?なんて思った。物語の季節は秋。食欲の秋で食べ物も香ばしいし、秋の空気を吸った時に胸に広がる香ばしさかもしれないし、ガールフレンド・ジルとのスクールライフ、それらも全部ひっくるめてその香ばしさに心ひかれるのではないかなあと。

 

 

もう一編。文庫に同時収録された『綿菓子』。

こちらのが私は読みやすかった。

見合いで島木さんと結婚したお姉ちゃんの元彼の次郎くん。次郎くんに恋心を抱いている私。甘く切ない物語。最後のシーンはきゅんとする。

 

一番すごいなと思った台詞は、「絹子さんのこと」のおばあちゃんからの衝撃的なカミングアウト。※若干のネタバレを含みます。

 

 

おばあちゃんの「おじいちゃんは絹子さんの家で死んだのよ」「絹子さんはおじいちゃんの恋人だったの」・・・私はすごく、ほんとにすごく、おどろいた。・・・「おんなじ人を愛したんだなあって思うとね、おたがいに何だかいとおしくなっちゃうのよ」(132ページ)

 

「人はね、誰かに愛されたら、その愛に報いるだけの生き方をしなくちゃいけないのよ。」

 

これをさらっと書ける江國さんがすごすぎて・・・!絹ごしのお豆腐がパックからお皿につるんって出るみたいに書いてあるから、読み手は江國作品の虜になるのかも。

 

 

はる