図書館・出版シンポジウム
東京国際ブックフェア2016 図書館・出版シンポジウム
「図書館で本を選ぶ、ということ」ー図書館人・出版人 選書について語る―
2016年9月24日(土)午後1時30分~3時30分 於 東京ビックサイト 会議棟703
【パネリスト】
★図書館より
内野 安彦氏 (元塩尻市立図書館長、元鹿嶋市立中央図書館館長)
★出版社より
持谷 寿夫氏 (みすず書房社長、日本書籍出版協会図書館委員会委員長)
【シンポジウム内容】
どのような「本」がどのようにして選ばれ、図書館資料として蔵書され、利用されていくのか。
公共図書館の蔵書は、児童・一般・地域とほぼすべての出版分野にわたり、学校図書館との関係も視野におけば、出版側からの注目はさらに高まる。
利用者の要求も多様化し、サービスも進化している現在の図書館での選書の実態を知り、理解を深めることにより、読者=利用者のためのより良き図書館の有り様を探る。
出版界が聞く図書館での本選び。
【シンポジウムの流れ】
挨拶→パネリスト紹介→図書館から報告→出版側から聞く、選書への質問→閉会
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ここからは、メモを元にブログ記事にするため、パネリストの言葉そのものではありません。二時間のシンポジウムは内容も多く、すべてはお伝えできません。印象に残った話をピックアップいたしますので、そのあたりをご了承のうえ、お読みください。
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【図書館からの報告】
・東久留米市は東京!(福岡と勘違いする人が多いので)
☆選書の実際☆
<選書ツール>
・新刊案内、書評紙
・書店(分野によって使い分ける)
・クチコミ(SNS←最近ではこれも大事にしている)
<選書の流れ>・・・3段階あります!
・毎日・・・システムで入力、予備選定
・週1・・・通常選定、リクエスト本の購入
・月1・・・部門別選定
☆リクエスト☆
どこまで応えるのか。流行本は類書のオンパレード。
数年経ってブームが去ると貸し出しも減り・・・
☆相互貸借☆
膨大な事務量で負担は大きいが、利用者は研究者が多い。
その町の利用者が一定期間、借りられなくなるのはいかがなものか。
☆人口の8割は未利用者☆
☆選書する私☆「得意」「不得意」を自覚。好みが偏っていないか。
☆除籍も重要な選書☆
地域共通の一冊を残すTAMALASという取り組み。
*除籍しようとしてラスト1冊だった場合どうするのか・・・
→規定だと残さねばならないが、本当に図書館で所蔵すべき本なのか。
他の多くの自治体が持っている場合、それは図書館の基本書なのでは?
担当が変わると、リセットされてしまう。
☆「本」=「人」である。
→出会わせるために図書館があるか。
・県庁所在地の図書館では、一番最後の2008年に開館。
☆本を買う人と借りる人は別の人☆
☆ベストセラーの複本☆
貸し出し冊数が重視されているが、新しい指標はないか。
ベストセラー本はブームが去ると・・・
同じ本を複数買うお金でほかの本が買えたのではないかという悩み。
☆図書館は過去からの人類の英知を集約する場所。☆
常に著者への敬意を忘れない。
【出版側からの質問】
☆選書会議について(回答:藤井氏)
図書館が長時間開館するようになり、様々な業務で多忙。
毎日隙間時間を見つけて、システムに入力する。
*会議のメンバー?
→児童、人文、レファレンスなど主だったジャンルの代表。
*時間は?
→半日、丸一日かかる。
*既刊書のリクエストがあった場合どうするのか。
→発売時点で買わなかった事実がある。大きな図書館から借りる?
*選定は基本的には新刊?
→これから出る本もあるが、月1の部門別会議では既刊書も選定。
*除籍の基準は?
→10年間の貸出率。少なくて古いものから。
*選書で高額と感じるのはいくらから?
→3800円、5000円、ひどいときは2000円も・・・驚きです。
*地域資料を集める。
→市民ができるだけ多くの資料にアクセスできるように。
入手しづらい本は何なのか、書店でリサーチ。
③内野 安彦氏
☆社会教育施設職員としての意識が大事☆
☆なぜ図書館員は出版業界全般の動きに関心がないのか☆
☆出会いたかった人と本が出会えたのか☆
→役所は貸し出し冊数至上主義になってしまっている。
本が必要としている人と出会えるように演出。
☆「利用者」を知る前に「市民」を知ることが必要。☆
→ヘビーユーザーの嗜好を反映しすぎていないか。
☆図書館を知ってもらうために何をすればよいか。☆
☆図書館員にとっての選書と矜持☆
【まとめ】
図書館員お三方の報告に共通していたのは、「選書」が「利用者」である「市民」にとって、有益なものになっているのか、偏ってはいないかといった図書館員としての忘れてはいけない視点を大切にされていること。ごく一部の「利用者」の意向ばかりでなく、「市民」全体にとって地域のなかで、図書館の役割=英知の集約の場所を果たしているのか顧みる必要があること。図書館は本を人と出会わせる場であり、貸出率に左右されずに、本当に「市民」が求めている本と「市民」が出会えているのかといった点検も必要であること。・・・図書館員の方の矜持を垣間見たシンポジウムだった。
一方、出版側は何をすべきか。出版不況が叫ばれる中、図書館が選書し購入することは、高額な学術書などの販売には欠かせないものと思う。出版側も図書館を利用し、選書から出版のヒントを得てもよいのではないだろうかと感じた。例えば、図書館員の長田氏が仰っていたが、学校の調べ学習で使う本はどんな本が実際に選ばれ、重宝されているかを現場のレファレンスなどに聞くというのも一つの手であろう。
厳しい出版業界において、図書館と出版という二つの異なる立場が相互に情報を共有し、「読者」が求める本と「読者」とを出会わせる役割を担っていってほしいと願っている。
はる